学びの糸を紡ぐ

自分なりになにかを身に着けていく過程をまとめたり、記録しておきたい心情を残したり。

丸山俊一『岩井克人「欲望の貨幣論」を語る』を読んだ

どんな本?

  • NHKで放送した番組「欲望の資本主義 特別編 欲望の貨幣論2019」(2019年7月14日放送)をベースに書籍化したもの

ピックアップメモ

  • 「貨幣を持つことによって、人間は匿名性を得る。...それによって、貨幣は、近代以前の社会において人間を縛り付けてきたさまざまな共同体的束縛から、個人としての人間を切り離す...。...近代社会における人間の「自由」に基礎を与えているのです。」
  • 貨幣を貨幣足らしめているのはなにか?
    • 貨幣商品説へのNO
      • 貨幣が銀等と同じ価値を持つなら、銀を細工して高くして売る、という行為を皆が行ってしまい、貨幣が流通しないだろう。
      • つまり、「お金のお金としての価値 > お金のモノ(商品)としての価値」が成り立っていなければならない!
      • また、紙幣のようにただの紙切れが使われていることも説明できない
    • 貨幣法制説へのNO
    • 貨幣自己循環論法
      • 貨幣の価値は社会が与える。
      • 貨幣はみんなが貨幣だと思うから貨幣なのである。
  • 仮想通貨は通貨足り得るの?
    • 足り得ない。投機対象となってしまうから。
    • 投機対象は、「お金のお金としての価値 > お金のモノ(商品)としての価値」の不等号が逆転してしまい、貨幣の前提が成り立たない。
  • 2つの資本主義観
    • 新古典派経済学
    • 不均衡動学派
      • 資本主義に理想状態などない。効率性と安定性は二律背反であり、政府の介入等が安定性をもたらして市場は成り立っている。
      • ケインズの「美人コンテスト」の例からわかるように、投機家は実体の価値ではなく人がどう考えるかに目を向けるため、本質的に市場は不安定なもの(非合理的)となってしまう。
      • ケインズ岩井克人
  • 貨幣は投機である
    • お金の価値が上がると実質的に物価が下がる(デフレ)。となると、今よりも将来物を買ったほうが得なので、タンス預金が増え不況になる。不況になるとさらに物価が下がる。デフレスパイラルが行き着く先は、企業倒産と失業が起こる恐慌。
    • 一方、お金の価値が下がると物価が上がる。人々は早くお金を使おうとする。物が買われ、物価が上がる(インフレ)。するとまた物が買われる。これが行き過ぎるとハイパーインフレーションになる。
    • このように、人々がお金の価値が上がったり下がったりすることを懸念して行動している様子は、まさに投機家のそれと同じといえる。
    • だからこそ、貨幣によって成り立つ市場は本質的に不安定と言えるのである(投資家と市場だけが資本主義を不安定にしているだけではないのだ、ということ!)。
  • アリストテレスと「近代」
    • アリストテレスは、資本主義に必然的に存在する逆説を見つけた。
    • ポリスに置いて人々が自身の役割を互いに全うして皆が善く生きることを追求すると、必然的に貨幣という媒介物が必要となる。
      • 靴職人が物々交換で家を建てることはできないため。
    • しかし、共同体内で自身の役割を全うしていく手段としてではなくそれ自体を目的として貨幣を必要としてしまうと、共同体の自足性が失われてしまい、共同体が崩壊してしまう。
    • なぜ貨幣それ自体を目的としてしまうのかというと、人間はモノだけでなく可能性自体にも欲望できる生き物だから。言語によって可能性という抽象的なものを発見してしまったから。

感想

  • とても平易にわかりやすく岩井氏の資本主義観が語られていて、とても良かった。仮想通貨についても語られていて、貨幣論の入門として素晴らしかった。
  • 雰囲気で理解している感もあるので、『貨幣論』は読まなきゃなと思った。
  • モース『贈与論』が出てきて構造主義とつながったり、共同体の解体と近代社会への移行など、『時間の比較社会学』ともつながったりしていて、今まで読書を続けている点と点が線になる感覚があった。

from where?

  • 資本主義社会のこれまでとこれからについて自分なりの展望を持ちたい、という気持ちがずっとある。
  • 実家に『貨幣論』があったのを覚えていたのもあり、貨幣論に関する本を読みたいと思ったが、まずはわかりやすい本を読んでから『貨幣論』を読もうと思った。

to where?

  • 岩井克人貨幣論
  • 貨幣のない世界の価値観を知るには、モース『贈与論』を読むのが良さそう。