学びの糸を紡ぐ

自分なりになにかを身に着けていく過程をまとめたり、記録しておきたい心情を残したり。

マイケル・S・ガザニガ『<わたし>はどこにあるのか ガザニガ脳科学講義』を読んだ

どんな本?

  • 「ギフォード講義」の講演をもとにまとめられた本。「脳科学の足跡を辿りつつ、精神と脳の関係、自由意志と決定論、社会性と責任、法廷で使用されはじめた脳科学の成果の実態など」が書かれている。

ピックアップメモ

  • 無数の並列分散モジュールの活動により人間は無意識に様々なことを行っている。また、たまたま最も優位なものが意識にあがっているに過ぎない。(例えば、無意識の車の運転。ブレーキ踏んだり前方に注意を払ったり)p90。
  • しかし一方で、自分自身に統一感を感じる。これは左脳のインタープリターモジュールが、意識に浮かんできた自分の知覚と記憶、行動、それらの関係について後付けの解釈を与えているからである。(p128)
  • 創発とは、ミクロレベルの複雑系で自己組織化が行われた結果、それまで存在しなかった新しい性質をもつ構造が出現し、マクロレベルで新しい秩序が形成されること。p155
  • 創発によりより高次のレベルが生まれることによって、組織には異なるレベルが存在する。量子力学が作用する世界とニュートン力学が作用する世界は全く別に捉えなければならない。ブレーキパッドを見ただけでは、金曜夜の渋滞を予測できない。DNAと人間の行動(脳と精神)のあいだには、たくさんの組織レベルが存在しており、全く異なる概念構造を持つ。p168。
  • 自由意思や責任感とは、脳ひとつのなかで生まれるものではない。人間が社会的なやり取りをするなかで一人では存在しなかった新しい規則が社会のなかに定まってくるが、その規則にしたがって獲得された性質なのである。p170
  • 人間はそもそも社会化された生き物である。p199
  • 社会に適合する人間が生き残っていく。尊ばれる道徳観は文化によって異なる。p218
  • 私たちの脳は社会という文脈で立派にやっていけるように神経回路を進化させてきた。高度なミラーニューロンシステムのおかげで、他者の気持ちを汲み取る能力が身に付き、インタープリターモジュールはそこから上がってきた情報をもとに他者を解釈するようになった。p223
  • 人生の生き方や社会のあり方を、人間という生き物が選んでいくには、特に正義や懲罰に対するスタンスが重要になってくる。p224
  • 報復的正義、実利的正義、修復的正義、という正義に対するスタンスがある。p258

感想

  • 脳の活動は化学反応であり自己の意識に浮かんでくる以外にも無意識でいろいろなことをやっているし、それは社会的な動物としてここまで進化してきた/生き残ってきた人間という文脈で発達してきた能力であるから、万能ではないし自らを完全にコントロールすることもできない。それを前提にすることが重要そうだ。
  • 左脳のインタープリターモジュールこそがいわゆる自分の考えというものを生み出すところなので、あくまで自分が自分の"意志"で考えるのは脳の無数のモジュールのごく一部の担当領域に過ぎないということのようだ。
  • そう考えると、↓の from where の「コンサータによって自己の連続性を失いつつある」状態についても、(あくまで理屈上は)受け入れる余地がある気がする。
    • 自分と非自分のような二項対立ではなく、グラデーションになっている、あるいはさらに全く違う自分もあり得るという事実を受け入れるのが出発点になる。
    • 無意識の無数のモジュールの働きから意識に浮かんでくるものが選ばれるプロセスが一定であることを前提としがちだが、そうではないことを受け入れる。
    • コンサータは、そのプロセスに影響を及ぼしコントロール可能にしてくれるものではないか。
    • どのようなプロセスをとる脳も自分の一部であると受け入れ、その上で自分らしいと思える方(左脳のインタープリターモジュールですっきり合理化できると感じられる方)に寄せることが相対的に望ましい自分の状態だと判断し、その状態に近づけるために薬を飲めばいいのではないか。
    • コントロールできない無意識の領域も自分である、という点を受け入れられるかどうかが重要になる。が、この本に載っているような具体例を知っていれば受け入れやすくなりそう。
  • 創発の話は非常に興味深かった。創発が行われている場合(ミクロの原則がマクロでは通用しない場合)、ミクロばかり見ていてもマクロでの動きは予想できない、というのはなるほどなと思った。色々と適用できそうな考えだ。
  • 複雑系、という概念も初めて知って興味深かった。渋滞とか天気とか、非常に多くの要因によって全体の動きが決まるとき、バタフライエフェクトのようにちょっとしたことが大きな影響を与えたりして、予測が限りなく難しくなる。なるほど。

from where?

to where?

  • 複雑系創発といったことについて興味が出てきた。が、特に気になる本が見つかったわけではないので一旦終了。