学びの糸を紡ぐ

自分なりになにかを身に着けていく過程をまとめたり、記録しておきたい心情を残したり。

戸田山和久『教養の書』を読んだ

どんな本?

教養とはなにか、教養を身につけるにあたって気をつけるべきものはなにか、教養を身につけるには具体的にどのような道をたどれば良いのか?を書いている本。

感じたこと

総評

とても良かった。次に学びたいことがかなり広がった。
これを大学一年のときに読めていたらどんなに良かったか、と思う。2020年発行なのでありえないけれど。
物理本の手触り感が良く、手元においておいてちょいちょい開いて読みたくなる。

知識のイヤミったらしさ

[要約]
文化はそもそもイヤミな面を持つ。
文化のアイテムには良し悪しの判断がつきもので、文化は人々を理解できるものと理解できないものに分断する。
理解できるものは理解できないものを見下し、理解できないものはさらに別の尺度で理解できるやつになろうとする。
このように、文化が多様になり豊かになればなるほど、同時に人々のランキングも複雑化していく。

かといって、このように人々を序列づける尺度を廃止しようという思想は危険である。
過度の倫理的潔癖さは反知性主義の餌食になりやすい
例えば、ポル・ポトの文化革命。

無知や傲慢をバカにする傲慢な人間になりたくないから知識を身につけることから距離を置こうとするのはもったいない。
大事なのはそれをコントロールすることであり、軽視を過去の自分に向けたり他人の自尊心を自分のそれと同様に尊重したりすればよい。

[感想]
教養を身に着けようとする姿勢が構造的に他人の軽視につながっているということを示されて、ハッとした。
今までモヤモヤがあったが、構造上避けられないのだから目を背けずに向き合って乗り越えればよいのだという考え方に救われた。


現代のイドラ論

[要約]
フランシス・ベーコンのイドラ論。
イドラとは、「もとから備わっているが、外からやってきたかは問わず、正しい認識を妨げ、我々を誤謬に陥らせる可能性のあるものすべて」。
以下の4つのイドラを指摘している。

  • 種族のイドラ
    • 認知バイアス的なもの
    • 人間の生物的特徴に根ざしたものの見方しかできない、というもの(コウモリから見える(聞こえる?)世界と人間から見える世界は違う)
  • 洞窟のイドラ
    • 個々人のもつ先入観。
  • 市場のイドラ
    • コミュニケーションの場そのものがもたらす知性の歪み
    • コミュニケーションに使う言語自体がもたらす歪み
  • 劇場のイドラ
    • 学問がむしろ知から人間を遠ざけることがある。

[感想]
あらゆる直感や論理は鵜呑みにせずにメタレベルの思考をしなければならない。反省的思考。

自分ならではの知を育む

  • 自分だけの単語帳を作る
    • 言語関係なく、知らない単語をまとめてボキャブラリービルディングをする。これはすぐに採用したい。
  • 自分だけの世界史年表を作る
    • これも作りたいが、いつか作り出そう・・・。まずは世界史を学ぶところから。

from where?

to where?

映画

  • 影の学問 窓の学問
  • 蠅の王
  • 博士と狂人
  • ことばへの情熱
  • 教養のグローバル・ヒストリー
  • なぜ歴史を学ぶのか
  • 反共感論(これは同作者の『哲学入門』で紹介されていたんだっけ?)

戸田山和久『哲学入門』を読んだ

どんな本?

「ありそでなさそでやっぱりあるもの」、例えば意味、機能、目的、自由、道徳・・・。
それを唯物論的・発生的・自然主義的観点から考える本。

哲学する営みを追体験する感じの本で、哲学の歴史とかを紹介する本ではない。
論理的思考をしながら読み進めるタイプの本。

感想

ペレブーム

ペレブームのハード非両立論が肌になじんだ。
自由意思と責任を捨てることは、我々が合理的行為者であることや熟考する主体であることを否定しないし、道徳のうちの多くも残されるというのが興味深い。

自分は、遺伝・育った環境・性格の3つでだいたい人生は決まってしまってしまうと考えている。
この格差社会で、ほとんど避けようがなく犯罪に手を染めてしまうような人もいるんだろうなと。
自分はかなり恵まれた3要素を備えていたのでたまたま生きやすいが、そうでなかったらと思うと恐ろしい。
誰に対しても、「そうであったかもしれない自分」を感じずにはいられない。

そういう自分にとって、このペレブームの考え方は非常に馴染んだし、考えを深めることができた。

ペレブームの本読みたいけどちょっと厳しそうだ・・・。

人生の意味を考えること

人生総体の意味を考えてしまうことは、進化の産物である目的手段推論能力のある種の暴走だ、という主張はとても面白い。

短期的な目線での目的を達成するための手段を考えるためのものを、手段の延長線上に何を目的するのか?と逆方向に使ってしまうと、人生の意味に惑いがちだ。

また、目的手段推論を中長期の目線で使うのも危険だ。
本当に自分が望んでいるかわからないもののために苦しむことになりかねない。

もっとはっきりと自分の望むもの、短期的な目線な目的のために手段を考えて、生きていけば十分なんだ、という気持ちになった。

「人間をいつも目的として扱い、単に手段として扱うな」

カントの定言命法の一つ。
無知なのでこの本で初めて知り、良いな〜と思った。
こういうのもっと知りたいな。
もっと知って、自分なりの系を構築したい。



from where?

たまたま昔ちくま新書セールのときに買ったやつを読んだ。
哲学というものに対する興味からスタート。

to where?

作者の別の本

  • 戸田山和久『教養の書』
    • 教養というものをどう捉えるか?どう身につけるか?あたりを一度ちゃんと本を読んで一つの考えを知っておきたい。今後色々本を読んでいく前に読んでおくとレバレッジが利きそう。
    • longtime1116.hatenablog.com


参考文献等から次読みたいものをピックアップ

  • ネーゲル『コウモリであるとはどのようなことか』
  • 三谷尚澄『若者のための<死>の倫理学


進化論関連のなにかも読んでおきたい

哲学系も。

(太字は特に興味あり)

有馬哲夫『児玉誉士夫 巨魁の昭和史』を読んだ

児玉誉士夫とその周辺の動きを追うだけで戦後の政争の動きをだいたい把握できてしまうのは、それほどの影響力を持っていたということだろう。政争の知略戦がリアルで面白かった。


現代では安倍晋三が総理をやっていたり河野太郎が総裁になるかも?という状態であり、岸信介河野一郎の政争が孫の代に続いて繰り広げられているようで、感慨深い。

心理戦は面白い。フィクションではなく現実でこのようなことを繰り広げられるのは政治の世界くらいではないか。
政策は国にとって非常に重要だが個人的にはワクワクできず、政争は国にとって無益だが自分にとっては非常にエキサイティングだ。


from where?

  • 昭和16年夏の敗戦』で戦前戦後史の面白さに目覚めたから

to where?

猪瀬直樹『昭和16年夏の敗戦』を読んだ

戦争の始まるいきさつを、関わる人間の心理や状況を克明に描きながら書いており、引き込まれた。
なぜ負けるとわかっているような戦争が始まってしまったのかよくわかる。

東条英機天皇のやり取り、総理になる前と後の葛藤がとても人間的で面白く読めた。

2021年、コロナ対策やオリンピック強行を見ると、日本はこの頃から進歩していないように見える。
DXの遅れもビジネス上致命的だし、日本が沈みゆく船だという思いは強まるばかりだ。
(だからといって日本を脱出できる力もないので、今日も今日とてS&PやMSCI Kokusaiを積み立てるのである・・・。)




from where?

  • 会社で話題に出て薦められた。
  • 大学受験時に戦前戦後史を面白く学んでいたが、深く学ぶ機会がなくいつか学びたいと思っていた。

to where?

読んだ本への★評価の基準

読んだ本にカテゴリで★をつけている。
★1〜★5までに分けているが、どういう基準で分けているかをここにまとめておく。

★★★★★

これを読む前と後で世界が変わった、人生が変わったと思えるような本。
今まで自分が前提としていた価値観、物の見方が覆されるような体験を得られたらこれ。
極めて少ない。

★★★★☆

かなり面白いと感じた本。お気に入りと言っても問題ない。
出会えて良かった、読んで良かったと思える。
あるいは、そこまで面白いというわけではなくても、重要な何かをもたらしてくれた本。
同じ作者の別の作品に自然と手を伸ばしてしまうことが多いかも。
★5にはなれないけど、★3は過小評価なので特別扱いしてあげたいな、みたいな本につけたい。
つまり、特別扱いする気が起きない本はすべて★3以下。

★★★☆☆

まぁそこそこ面白かった本。
あるいはそんなに読んでいて面白いとは感じられなかったとしても、考え方に一定の影響を与える内容が書かれていたときもここに該当。
この本自体から得られるものは少なかったが、次の道標を多く提供してくれた場合も該当させて良い。
出会えたことにそこそこの価値を感じられれば★3以上の評価がつくと考えて良い。
大多数は★3になりそうな予感。

★★☆☆☆

少なくともひとつくらいは得られるものがあった本。
例えば、単純にエンタメとして面白かったとか、読むのは退屈で真新しさはなかったけど自分の考えが整理されて良かった、とか。
読んだ実績を手に入れてなんか満足、というケースもここに該当。
出会わずに人生を終えてもまぁそこまで惜しくはないかな、というレベル。

「自分の教養不足でその本の本質に到達できなかった気がする、将来読んだらまた変わるかも・・・」みたいなものも含まれるので注意。
例えばボルヘス『伝奇集』は一週目は★2だったが今では★5だろう。

★☆☆☆☆

5段階評価の中で唯一、負の感情が湧いた本につけられる。
本棚に残しておかなくてもいいかもな、と感じるような本。
★2とは違いむしろ強烈な印象を受けており、ある意味特別扱いしているとも言える(?)