学びの糸を紡ぐ

自分なりになにかを身に着けていく過程をまとめたり、記録しておきたい心情を残したり。

ジョージ・フリードマン『100年予測』を読んだ

どんな本?

  • アメリカ政府や多国籍企業に情報を売っているアメリカのインテリジェンス企業のトップの人間が書いた、地政学的な観点から長期的な未来を予測した本。
  • 予言の書として読むのではなく、各国の置かれた状況と思惑がどのようなもので、それがどのように相互に関連して社会情勢を変えていきうるのか?ということのヒントを得るために読んだ。

感想

  • if に if を重ね始める九章以降は単なるフィクションのように読んだが、それまでの内容はなかなか興味深かった。
  • 戦後の日本に住んでいると、どうしてもこの本に出てくるような血の気の多い展開になっていくようにはあまり思えない。
    • (日本人の自分が現実的に危機感を感じにくいのは、第二次世界大戦後の日本はその反動で非常に反戦感情が強いこと、そして地続きで他国と接するような国境を持たないこと、の2点が大きく影響しているように感じる)
    • しかし、実際には現にロシアがウクライナを侵攻している(この本では、2010年代にウクライナがロシア領になることは既定事実だといい切っている)。それは今に始まった事ではなく、過去にもイラク戦争など自分が生きている時代に世界では戦争が行われている。
    • ついつい本当に異世界の自分とは全く関係ない話のように思ってしまうが、日本が戦争に巻き込まれる(あるいは戦争を日本側から起こしていく)可能性もあるのだということは常に頭の片隅に置いておかねばならない。
  • アメリカは強い。米国株投資は続けていこう!日本とアメリカの間に対立関係が生まれて戦争とかが始まってしまったら、証券口座のお金が凍結とかありうるのかな・・・。気をつけなければならない。
  • これは雑なアイデアだが、日本のように下手すると2世代近く実戦を経験しない(?)国もあれば、アメリカのように常に戦争している国もあり、前者のような国はあまりにも戦争が "下手" になって(これは戦略立案的な意味でもそうだし、現場の戦闘能力でもそう)、軍備以上の差が出てしまいそうな気がする。
    • 自衛隊員は他国から見れば立派な軍人だが、戦闘経験は乏しい。いざ本当に自分の命をかけて戦争するとなると、米国の軍人とは比べ物にならないのではないかなぁ。
    • 集団的自衛権の行使の名目で海外に自衛隊を派遣するのには、そういう戦争力のようなものを継続的に養う目的もあるのかもしれない。

ピックアップメモ

(5つの項目だけ抜粋)
一、アメリカ陸軍が北米を完全に支配すること
二、アメリカを脅かす強国を西半球に存在させないこと
三、侵略の可能性を排除するため、アメリカへの海上接近経路を海軍が完全に支配すること
四、アメリカの物理的安全と国際貿易体制の支配を確保するため、全海洋を支配すること
五、いかなる国にもアメリカのグローバルな海軍力に挑ませないこと

  • p77

建前はともかく、アメリカにとってユーラシアの平和は最優先事項ではない。アメリカは戦争に完勝することにも興味がない。これらの紛争の目的は、ベトナムや朝鮮での紛争と同様、単に峡谷の出現を阻止し、地域を不安定に陥れることであって、秩序を打ち立てることではないのだ。

アメリカの行動は不合理に思われるし、その目的がバルカン諸国や中東の安定化にあると考えるなら、確かに不合理だ。だがセルビアアルカイダを妨害して不安定な状況に陥れることが主眼であれば、きわめて合理的な行動と言えよう。こうした介入は「解決」に近づくような成果を挙げることは決してないし、決定的な打撃を与えるには不十分な戦力をもってつねに遂行されるのである。

ロシアのウクライナ侵攻がここまで長引いているのもこういうことなのかもしれない。

  • p94のあたり、人口が急増する段階での世界への影響と、今後人口が減少に転じる段階でのそれが、とてもわかりやすくまとまっていて良かった。何度も読みたい。時間がないのでまとめるのは省略・・・。
  • p265(引用は省略)
    • 第二次世界大戦までは総力戦が主だったが、技術革新が進み、ピンポイントで敵のキモとなる軍隊や都市にダメージを与えられるようになる(極超音速無尽爆撃機)と、戦争自体は少ない犠牲で終わらせられるようになるようだ。
  • p270

軍隊の目的は軍隊を破壊することにあり、精密誘導兵器はこれをかつてないほど効率的に達成する。しかし領土の占領は、今も大量の労働力を要する活動だ。それは軍人の仕事というよりは、いろいろな意味で警官の仕事に近い。兵士の仕事は敵を殺すことだが、警官の仕事は犯罪者を見つけて逮捕することだ。前者に勇気、訓練、兵器が必要とされるのに対し、後者にはこのすべてに加えて、敵と良民を区別するための文化的理解が必要とされる。この仕事は今より簡単になることはなく、今後も大国の弱点になるだろう。

アメリカが、ユーラシア大陸を不安定にさせるための戦争は行うが領土拡大は行わないのは、こういう理由にも依るのだろう。
アメリカが第二次世界大戦後、日本の統治を日本人にやらせたのも頷ける。

  • p328

宇宙発電への転換が起きれば、エネルギーの消費者だった産業界が、エネルギーの生産者になる。

石油から宇宙発電にシフトすると、勢力図が大きく変わりそう。
アメリカの資本力と技術開発の土壌をもってすれば技術革新を牽引するのは引き続きアメリカであり続けるだろうから、新たなエネルギー源を牛耳るのもアメリカとなるだろう。

  • p358(引用は省略)
    • 19世紀半ばから21世紀初めにかけてのアメリカ人入植者のメキシコ占領の揺り戻しが起きるという話。

from where?

longtime1116.hatenablog.com



to where?

  • 『海の地政学-覇権をめぐる400年史』
    • 海を制したことがアメリカの強さの源泉のひとつであるような書かれ方がされているが、制海権とはどのようなものなのか?というところが具体的にはピンとこなかった。本を調べたらこの本が出てきたので読んでみたいと思った。
      • たとえば経済制裁っていうのはどういうルールのもとでアメリカがどういう力を行使することで実現できるのだろう?
      • たとえばアメリカ海軍が全世界に力を持っているというのはどういうことなんだろう?