学びの糸を紡ぐ

自分なりになにかを身に着けていく過程をまとめたり、記録しておきたい心情を残したり。

松沢裕作『生きづらい明治社会 不安と競争の時代』を読んだ

どんな本?

  • 明治時代の厳しい社会を、現代の我々の置かれた状況と対比しつつ紹介していく。

メモ

  • p63あたり
    • 徳川慶喜は、大政奉還により一度天皇に政権を返還する姿勢を示した上で、新たに作られる政権の中で実権を握ろうとした。

--- それを阻止するために、薩摩藩大久保利通や公家の岩倉具視により軍事力で京都御所の門を封鎖し、慶喜の勢力を御所周辺から追放した。そして、王政復古の大号令天皇の名で発した。

      • 新政府と旧幕府勢力の一部の間で起きた内戦が、戊辰戦争
    • 明治政府は自分たちで「自分たちは新しい政府だ」と名乗っただけなので、もちろんカネがない。
    • 1871年7月、廃藩置県により国土の全てを政府の直轄地とした。これによりようやく全国からの年貢が政府の収入になった。また、地租改正も行なった。
    • 日本各地で、士族の反乱が相次いだ。元々軍事クーデターで起きた政府であることから、「自分たちも武力で政府を打ち倒すことができる」と考えていた士族が多かった。
  • p71

人が貧困に陥るのは、その人の努力が足りないからだ、という考え方のことを、日本の歴史学界では「通俗道徳」と呼んでいます。この「通俗道徳」が、近代日本の人びとにとって重大な意味をもっていた、という指摘をおこなったのは、2016年に亡くなった安丸良夫さんという歴史学者です。
安丸さんは、勤勉に働くこと、倹約をすること、親孝行をすることといった、ごく普通に人びとが「良いおこない」として考える行為に注目します。これといった深い哲学的根拠に支えられるまでもなく、それらは「良いこと」と考えられています(だから、それは「通俗」道徳と呼ばれます)。
〜省略〜
・・・人びとが通俗道徳を信じ切っているところでは、ある人が直面する問題はすべて当人のせいにされます。ある人が貧乏であるとすれば、それはあの人ががんばって働かなかったからだ、ちゃんと倹約して貯蓄しておかなかったからだ、当人が悪い、となるわけです。
安丸さんは、こうした通俗道徳の考え方がひろまったのは、江戸時代の後半であると言っています。江戸時代の後半に市場経済がひろがり、人々の生活が不安定になったときに、自分で自分を律するための基準として、こうした思想がひろまったというのです。
〜省略〜
一方、江戸時代の人びとは、まだ、完全に通俗道徳のわなにはまり切っていたわけではありません。
〜省略〜
江戸時代の人びとが、通俗道徳一本やりでなくてもなんとかやって行けた理由の一つは、江戸時代の社会が、集団を基本に形づくられていたからです。
ある人間が怠けていても、ほかの人がカバーしてくれる仕組みが、集団の中には埋め込まれていました。

  • 共同体が解体され、個人主義が色濃くなっていく。日本ではこういう形で民衆意識の近代化が進んでいったのだなぁ。
  • p111

ここでいう「家」は現在の私たちが考える「家族」とはすこし違います。
江戸時代以降、農民、町人、職人のあいだで広まった「家」という制度は、生産や販売の組織でもあり、消費組織でもあるような、人びとのつながり方です。

この辺りは、過去に読んだ柄谷行人『世界共和国へ: 資本=ネーション=国家を超えて』を読むとより理解が進む。日本に固有の話ではない。
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感想

  • 世界史を色々学んだ上でこの本を読んでいるため、日本の近代化は「たまたまそうなった」わけではなく、欧米の近代化と同型の変化をしているのだということがよくわかって面白い。
  • 廃藩置県が重要な歴史上のイベントだということが、解像度高く理解できて面白かった。
    • 藩という軍事力も有していたであろう各地方勢力の名残りがある状態で軍事クーデターによって成立した明治政府が、そのまま日本を統治し続けることができたのはおどろきだと思った。
    • また、今の日本で軍事クーデターが成功することはまずあり得ないなと思った。軍事力を既に国が中央集権的に有しているため。
  • 現代も生きづらいが、それでも先進国の人間の価値観のアップデート(及びそれによる制度の進化)のおかげもあり、生きやすくはなっているんだなぁと感じる。ただしそれは、心理的な側面というよりは、病気になりにくいとかそういう物理的な側面で生きやすくなっているという話であり、下層の人々の生きる苦しみはいつだって本物だし、比較できるものではない。

from where?

  • たまたまこの本をネットで知り、タイトルからして魅力的なので読んでみることにした。
    • 過去に存在したすべての人々も、自分と同じように喜んだり苦しんだりしながら一生を終えたはずだが、世界史や日本史のことを学ぶ時、ついつい彼らの存在は目に入らず、偉人や歴史的出来事にばかり目がいってしまう。
    • 自分は究極的には人間に興味があるのだから、こういう歴史の中に登場する一般の人々の人生を垣間見られるような本こそ興味深く読めるのではないかと感じて、読むことにした。

to where?

  • 明治・大正あたりの激動の日本の中で活躍した日本人の話は、色々と読んでみたい。

古川昭夫『世にも美味しい数学 極限・整数・複素数の世界を味わう』

どんな本?

  • あのSEGの創設者の方が書いた、数学を楽しむ本。

感想

  • 面白かった。
  • 高校数学を履修した人が、高校数学では扱わない範囲の極限や複素数の話を、直感的に理解しながらざっくり学ぶのに良い本だと思った。
  • これを機にそろそろ数学の勉強をもう一度始めたいなぁと思わせてくれるような一冊だった。

from where?

  • 常々数学をやりたいなぁと思っているが、なかなか手を出せない。
  • この本なら、数学をやっていて面白いと感じる部分を気楽に摂取できそうだなと感じて、読むことにした。
    • SEGの創設者が書いた本なら、数学の面白さを伝えるのがうまそうだなと思った。

to where?

  • 改めて微積・線形から入って、色々と学んでいきたいという気持ちがある。
  • でも世界史の方を一旦ある程度学んでからかな・・・。

柄谷行人『世界共和国へ: 資本=ネーション=国家を超えて』を読んだ

どんな本?(amazonより引用)

  • 「資本=ネーション=国家」という接合体に覆われた現在の世界からは、それを超えるための理念も想像力も失われてしまった。資本制とネーションと国家の起源をそれぞれ三つの基礎的な交換様式から解明し、その接合体から抜け出す方法を「世界共和国」への道すじの中に探ってゆく。二一世紀の世界を変える大胆な社会構想。

感想

  • 世界史をさまざまな観点(政治、経済、文化、etc...)で学んでいく際に出てくる疑問に対して、包括的に答えてくれる一つの理論体系を提供してくれているように感じた。
    • しかし、そもそも前提として世界史の基礎知識が足りていないせいで、感動が薄くなっているように感じた。
    • また、知識不足なせいで本を読んでいるときに解像度が低くてモヤモヤした。例えば「帝国」と書かれた時に具体例と周辺知識がバッと脳内に展開されてほしい。
  • 受験レベルの世界史をある程度しっかり勉強して、色々と本を読んで、その上でこの本を読み直したい。その後、『世界史の構造』を読みたい。

ピックアップメモ

  • p48

生産物交換が共同体と共同体の間に始まるのと同様に、国家は共同体と共同体の間に発生するのです。
・・・
そこではむしろ、交換がなされる前に、略奪がなされる可能性がある。交換は、むしろ暴力的略奪が断念されたときに生じるというべきです。共同体間の生産物交換は、一つの共同体が他の諸共同体を支配し、それ以外の暴力を禁じること、いいかえれば、国家と法が成立することによって可能になります。

国家というものをその内部のみで完結するものとして見るべきではない、ということが繰り返し言われている。国家は他の国家との関係性の中で成り立つ概念である。

  • p121

一方、国家の自立性は、それが他の国家に対して存在するという位相においてのみ見出されるのです。その意味で、国家の自立性を端的に示すのは、軍・官僚機構という「実体」です。
・・・
ヘーゲルによれば、議会の使命とは、市民社会の合意を得るとともに、市民社会を政治的に陶冶し、人々の国政への知識と尊重を強化することにあります。いいかえれば、議会は、人々の意見によって国家の政策を決めていく場ではなく、官吏たちによる判断を人々に知らせ、まるで彼ら自身が決めたことであるかのように思わせることにあるのです。
・・・
議会制民主主義が発達したはずの今日の先進国において、官僚制の支配はますます強まっています。ただ、そのように見えないようになっているのです。議会制民主主義とは、実質的に、官僚あるいはそれに類する者たちが立案したことを、国民が自分で決めたかのように思いこむようにする、手の込んだ手続きです。

なるほど、このように捉えかつそれをポジティブに受け止めることで、個人的には政治的アパシーを克服できそう。

p125

たとえば、革命は旧来の国家機構を廃棄するように見えます。しかし、それはただちに外からの軍事的干渉を招くので、革命の防衛のために旧来の軍・官僚機構に依存するほかありません。かくして、旧来の国家機構が保存され、再強化されるようになる。国家をその内部だけから見る考えでは、国家を揚棄するどころか、むしろ、国家を強化することにしかならないのです。

p137

イギリスで産業資本主義が最初に発展したのは、生産手段をもたず労働力を得るほかないプロレタリアがいたからだといってもよいのですが、それは、たんに貧民がいたということではない。大切なのは、このプロレタリアとは、労働力を売って得た賃金で生産物を買う消費者だということです。産業資本が商人資本と決定的に異なるのは、この点です。商人資本は主として奢侈品を扱いました。それを買うのは王や封建諸侯です。
一方、産業資本の生産物は生活必需品であり、それを買うのは生産したプロレタリア自身です。もちろん、労働者は自分が作ったものを買うのではない。しかし、総体としてみれば、労働者は彼ら自身が作ったものを買い戻すといっていいのです。労働者の消費=労働力の再生産は、資本の増殖過程の一環としてあるわけです。

p139

純化していえば、商人資本が外国(遠隔地)に向かっていたのに対して、産業資本は国内に遠隔地を見つけた。そして、それがまさに生産=消費するプロレタリアであったということです。

p151

産業資本は、本当は商品にはならない二つのものが商品になった時に成立した。すなわち、労働力と土地です。これらは資本が自ら作り得ないものです。
たとえば、資本は労働力商品を作ることはできない。他の商品と違って、需要がなければ廃棄するということはできない。不足したからといって増産することもできない。また、移民で補充しても、後で不要になっても追い出すことはできない。産業資本は労働力商品にもとづくことで、商人資本のような空間的限界を超えたが、まさにこの商品こそ資本の限界として、内在的な危機をもたらすのです。実際、資本にとって思い通りにならない労働力の過剰や不足が、景気循環を不可避なものとするわけです。
だが、商品にならないものの商品化は、資本にとって内在的な障害であるだけではない。それは、人間を含む自然にとっても破壊的なものです。まず人間から言えば、労働力商品としての人間は、家族、共同体、民族などから切断されます。すなわち、互酬的関係をうしなう。人々はそれをナショナリズムや宗教という形でとりかえそうとするでしょうが、それはそれで別の災禍をもたらす。おそらく、商品交換の原理に対してぎりぎりまで抵抗するのは、家族でしょう。しかし、最近では家族の互酬原理さえも解体されつつあります。
つぎに、資本の限界は、それが自然を商品化したことにあります。生産はつねに、同時に廃棄物の生産です。資本性生産は、それ以前の段階では可能であった再生産エコシステムを破壊してしまう。特に、石油にもとづく産業のグローバルの拡大は、自然を再生できないほどに破壊してしまう。つまり、環境汚染や温暖化が致命的な結果をもたらすことは明白です。ところが、資本はその運動を止めることはできない。自己増殖的でないかぎり、資本は資本でなくなるからです。

家族ですらも互酬的原理から商品交換の原理になりつつある。
これはたとえば、「自分と妻はお互いにいくら資産を持っているか知らない。お互いに出すべきものを決めて、あとは自由にやっている。お互いに自立できる状態を維持した上で関係を築きたい」というような夫婦関係の人と出会ったことがあるので、納得感がある。


p154

産業資本を、生産点における搾取という観点でみるならば、その本質をほとんど理解できないでしょう。
・・・
資本制の発展とともに、資本と経営の分離がおこります。資本家はたんなる株主として生産点から離れ、他方、経営においては、一般に官僚制が採用される。経営者と労働者の関係はもはや身分的階級ではなく、官僚的な位階制になる。
・・・
こうして、生産点でみるかぎり、「資本」と「賃労働」の関係はもはや主人と奴隷の関係ではない。個別企業では、経営者と労働者の利害は一致します。だから、生産点においては、労働者は経営者と同じ意識を持ち、特殊な利害意識から抜け出ることは難しいのです。
・・・
生産過程においては、労働者は資本に従属的であるほかないのです。しかし、労働者は流通過程において、消費者としてあらわれます。そのとき彼らは資本に優越する立場に立つわけです。

  • p158

西ヨーロッパにおいて、このような「帝国」の分解が明瞭になるのは、絶対主義国家の成立においてです。
・・・
たとえば、農奴賦役や年貢を金納するようになる場合、領主-農奴という封建的関係は、地主-小作人という関係に変形されます。貨幣経済の浸透は、このように実質的に封建的(経済外的)強制を無化します。他方、そのような封建諸侯を制圧した王は、領主たちが得てきた封建地代を独占し、それを国家への租税に変換します。このような主権国家が各地にできてきたとき、西ヨーロッパの世界帝国は解体されたといっていいわけです。

  • p160

もちろん、絶対主義国家の段階はまだネーション=ステイトではありません。ネーション=ステイトが生まれるのは、市民革命によって、こうした絶対的主権者が倒され、人民主権が成立する段階です。しかし、ネーションの基盤が作られるのは、絶対主義王権の時代なのです。
・・・
人民はまさに絶対的王権者の臣下として形成されたのです。つまり、それまでさまざまな身分や集団に属していた人たちが、主権者の下で臣下として同一の地位に置かれた時に、初めて人民となった。国民は、まず臣民として形成されたのです。このような臣下としての同一性は、他方で、封建制において存在したさまざまな共同体が解体されることによって生じます。

  • p161

一般的にいって、それまで身分・部族・共同体・言語によって分かれていた人々が、その差異をこえた同一性を持つのは、絶対的な主権者の臣下になる時です。それはたとえば、明治日本のケース - 徳川の幕藩体制を廃棄して、天皇の下にすべての者を臣下とすることによって、国民を作り出した - に当てはまります。


p166

ネーションが商品経済とは違ったタイプの交換、すなわち互酬的交換に根ざすということを意味するのです。ネーションとは、商品交換の経済によって解体されていった共同体の「想像的」な回復に他なりません。

ナショナリズムは、商品交換の経済によって失われた共同体時代の互酬的交換の回復!

  • p175

ネーションにおいては、支配の装置である国家とは異なる、互酬的な共同体が想像されています。こうして、ネーションは国家と資本主義経済という異なる交換原理に立つものを想像的に綜合するわけです。私は最初に、いわゆるネーション=ステイトとは、資本=ネーション=国家であるとのべました。それは、いわば、市民社会=市場経済(感性)と国家(悟性)がネーション(想像力)によって結ばれているということです。これらはいわば、ボロメオの環をなします。つまり、どれか一つを取ると、壊れてしまうような環です。

p222

彼(カント)の理念は窮極的に、各国が主権を放棄することによって形成される世界共和国にあります。それ以外に、国家間の自然状態(敵対状態)が解消されることはあり得ないし、従って、それ以外に国家が揚棄されることはあり得ません。一国の中だけで、国家を揚棄するということは不可能です。

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to where?

  • 柄谷行人憲法の無意識』
  • マルセス・モース『贈与論』
    • 互酬的関係についての理解を深めておきたい

石井洋二郎『ブルデュー『ディスタンクシオン』講義』を読んだ

どんな本?

感想

  • 講義形式で非常に読みやすかった。
  • この社会を生きていると階級闘争に必然的に参加してしまうということは受け止めた上で、いかにしてそこから自由になるかということを考えて生きていかなければならないと感じる。というのも他者との差異の間に価値を見出すスタンスは、他人軸の幸せの獲得には繋がる(客観的に見て幸せっぽく見える人間にはなれる)が、自分のための幸せの方向性を定め涵養していくことにはつながらないからだ。
    • ただし、自由になるというのはもちろん階級闘争に参加しないという話ではない(そんなことは不可能である)。そうではなく、自分が何らかの意見を持つ際に自身のどのようなハビトゥスが影響を与えてそのような意見を持つに至ったのかに思いを巡らせること、それにより自分が重視する価値基準から他者との差異の間に見出された価値を分離し、自分軸の価値を取り出して育てていくこと、ではないか。

ピックアップメモ

続きを読む

大澤真幸『戦後思想の到達点: 柄谷行人、自身を語る 見田宗介、自身を語る』を読んだ

感想

  • 見田宗介については大体主著は押さえていてわかっている、柄谷行人はさっぱり読んだことがない、という状況で読んだ。
  • その結果、見田宗介のパートは「なんて簡潔にまとまっているんだ!全体が一望できて素晴らしいし、内容もやはり感嘆ものだなぁ。でも全く読んだことがない人が読んで理解できるのだろうか?」みたいな印象を持った一方で、柄谷行人のパートは、「なんとなく雰囲気しか掴めないな・・・これ、わかる人にはわかるんだろうけど、ハイコンテクストすぎて自分には難しいな・・・」という印象を持った。
  • つまり、この本は入門書としても機能します的な表現がされているが、ある程度わかっている人がおさらいするのに最適な本、のように思えた。
  • 廣松の物象化論やモースの贈与論、創造の共同体のネーションの概念など、今まで自分が触れてきた(あるいは積読にしているもの・・・)が続々出てきた。学びの糸を紡げているなぁと嬉しく思った。
  • 柄谷行人の交換様式論を大まかに把握した上でもう一度読むと良さそう。特に大澤真幸パートの「交響するD」のところは、なんとなくお宝が眠っていそうな予感はする。自分ではまだ十分に理解できていないけれど。
  • ナショナリズム NHK100分de名著』や『マル激第1100回』でも感じたが、大澤真幸さんの文章/発言は本当にわかりやすく、読み手/聞き手としては本当に助けられる。

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ピックアップメモ

  • p117-p118

この著書の中で、価値は「主体の欲求をみたす、客体の性能」として定義され、その機能は、「意識的行為における選択の基準」だとされる。
価値の定義からわかるように、価値の類型の論理的な出発点は、欲求の直接的な充足と、それにともなう感情としての<快楽>である。だが、快楽原理は、二つのジレンマを内在している。第一に、現在の快をとると、それが未来の不快をよびおこすかもしれない。第二に、自己としての快は、他者にとっての不快かもしれない。つまり、価値判断には「時間的パースペクティブ」と「社会的パースペクティブ」という二つの次元がある。見田さんは次のように整理する。

(1)時間的パースペクティヴの次元において
  A <現在>の感情の迸るままに身を任せるべきか(感性本意で<美>が究極価値)
  B <未来>の諸結果にたいする顧慮からそれを抑制すべきか(理性本意で<真>が究極価値)
(2)社会的パースペクティヴの次元において
  α <自己>の利害のおもむくままに行為すべきか(<幸福>を究極価値とする欲求性向が支配的)
  β <社会>への諸結果にたいする顧慮からそれを抑制すべきか(<善>を究極価値とする規範意識が支配的)

さらに、これら二つの次元をかけあわせた四象限から、四つの基本的な価値基準が演繹される。A-αが快(苦)、B-αが利(害)、A-β愛(憎)が、B-βが正(邪)である。
たとえば、伝統的には、価値には真・善・美の三つがあると言われたりするわけだが、なぜ三つなのかよくわからない。『価値意識の理論』の四類型は、快楽原理に含まれる二つのジレンマから論理的に導出したものなので、四つであることに必然的な理由があることがわかる。
・・・
時間的次元はニヒリズムの問題に、社会的次元はエゴイズムの問題に、対応している。

今まで、「ニヒリズムとエゴイズムはそれぞれ『時間の比較社会学』と『自我の起源』で扱われているが、これら以外には乗り越えるべき壁はないのだろうか?」と疑問だったのだが、こういうことなら納得できる。
時間と空間(=社会)で分けて、空間の方を自己と他者(=社会)という風に分ければ MECE になるから、少なくともこの切り口においては「四つであることに必然的な理由がある」と言えるのか。
また、自分なりの思想を築いていくにはこうやってMECEに自分の課題を整理してそこから出発していくとうまくやれそう。大きなヒントを得られた。
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from where?

  • 見田さんからはかなりの影響を受けたが、影響をあまりにも強く受けすぎており、この見田社会学みたいなものとは別の切り口で世の中を捉える方法を探していた。が、どうやって探したもんか・・・という感じで困っていた。
  • そんななか調べていたらこの本を見つけ、近年柄谷行人氏はバーグルエン賞を受賞したことも知っており、いい機会だから読んでみたいなと思って買った。

to where?

  • 柄谷行人『世界共和国へ: 資本=ネーション=国家を超えて』
    • この本を先に読んだ方が平易で良いらしい、と本書にも書いてあったので読むことにする。
  • 柄谷行人『世界史の構造』
  • 柄谷行人憲法の無意識』
    • 憲法9条改正問題等、自分なりのしっかりした意見を持つに至っていないので、こういうテーマの本をとりあえず一冊読んでみたいと思った。
  • 見田宗介宮沢賢治: 存在の祭りの中へ』
    • p205で「後に残したいと思うのは、基本的には、この七つの仕事だけです。」と書かれていて、これだけまだ読めていない。
  • なんかカントとかヘーゲルとか、その辺りも触れていかないと柄谷行人の著作を理解するのは難しかったりしそうだな〜〜〜。
    • NHK100分de名著とかで見つけていってもいいかもしれない。
    • 大澤真幸社会学史』で社会学の全体感を把握するというのもやっておきたい。

川北 稔『砂糖の世界史』を読んだ

感想

  • 良かった!こういうテーマ史みたいなのをたくさん読んでいくうちに世界史の流れを自分の中に定着させていけると嬉しい。受験世界史の勉強をちゃんとやる・・・みたいなのもやりたいが、それだけだと単純な暗記で記憶が定着しづらかったりするので。
  • 岩波"ジュニア"文庫なだけあって読みやすかった。とはいえ本当にジュニアが読んだら読み通すのが大変だと思うが・・・。

ピックアップメモ(明日からハワイ旅行で時間無いので一部だけ・・・)

  • P42 クレオール
    • 『想像の共同体』で出てきたやつだ!となった。
  • P44
    • プランテーションモノカルチャー発展途上国の原因
    • 本当に、今の価値観からしたらとんでもないことをやっていたよなぁ。
    • この本ではほとんど書かれていないが、「黒人王国」と表現されているところがどんな感じだったのかは詳しく調べたい。
      • 「アフリカにとって奴隷貿易の開始は、現代までに続く外部勢力による大規模な搾取・略奪そのものと言われるが、現実には奴隷狩りを行い、ヨーロッパ人に売却したのは現地アフリカの勢力である。奴隷貿易によりアフリカは社会構造そのものが破壊されてしまった。これに貢献したコンゴ王国、ンドンゴ王国、モノモタパ王国などは衰退の運命を辿った[5]。」wikipediaより。
  • p50 「時は金なり」

from where?

  • 世界史の学習をしていたときに、評判が良かったので読んでみたいと思った・・・みたいな経緯だったはず。

to where?

  • 奴隷制については一度本を読んでおきたい。特に具体的にどういう主従関係になるのか、奴隷はどういう扱いを受けていたのか等。昔なんかの映画を見た時、奴隷と主人の関係がかなり良好に見えて驚いた覚えがある。
  • ウォーラーステイン『入門・世界システム分析』とか?

森稔『ヒルズ 挑戦する都市』を読んだ

どんな本?

感想

  • 目先の利益にとらわれず、信念を持って(理想を掲げて)都市を作り上げていく様子は、圧巻だった。
    • 大学時代に江副浩正に対してp104「「それが男子一生の仕事かよ」と憎まれ口を叩いたような覚えがある」とあるが、確かに「男子一生の仕事」と胸を張れる仕事と言えそう。
    • 自分は世の中をこう変えたい!みたいな熱意を持ったことがないしなかなかこういう生き方をしたいとは思わないが、それでもこういう "大きな仕事" が世の中にはあるんだと思うと、ちょっと羨ましくはある。就活生が "大きな仕事" をしたいから総合商社に入る・・・みたいなのも大いに理解できる。
  • 六本木ヒルズに今後出勤することになるからこの本を読んだのだが、六本木ヒルズはそこに住みそこで働く人に向けて設計されているということが序盤でわかってしまったので、なんじゃい!となった。
    • でもまぁ、知識が増えて六本木ヒルズを楽しく散策できるようにはなったとは思うので、楽しみ。

メモ

  • p32
    • 六本木ヒルズは住む者のための都市であり、通勤のための都市ではない
  • p44
    • ダブルデッキエレベーターというものがあるんだ!六本木ヒルズは奇数階と偶数階で乗り場が違ったのだが、そういうことだったのか!
      • 自分はエスカレーター好きだが、エレベーターも悪くないもんだ。
    • 六本木ヒルズは、ワンフロアのサイズがべらぼうに大きい。確かに行ったときに「外から見たらわからないけど、入ってみるとこんなに広いのか」と思ったのだが、やはり特別大きかったんだな。
      • なるべくワンフロア内に全員がいる方が働きやすそうだと思うので、そういうところで働けるのは嬉しい。
  • p66, p197
    • 実際のところ、縦に伸ばして空間をうまく活かした場合にどの程度の人数がその都市で働き生活することができるんだろう?
      • 面積は都心からの距離の二乗に比例して拡大していく(それゆえ体積も距離の二乗に比例して拡大していく)が、垂直方向に伸ばしても体積は定数倍にしかならないので、収容人数には限界がありそう。
    • 職住を分離する場合は、都心からの距離に応じて貧富の差がグラデーションになりそうだが、職住近接の都市があると、そこに住める人とそうでない人の間で明確な格差というか壁が発生しそうなイメージがある。
      • あと、日本人が住めるのだろうか?
    • 「欧州の諸都市も職住近接だった」とあるが、実際どうなんだろう?ニューヨークとかはそんなイメージあるか。
  • p93
    • 地震対策、防災対策はかなりしっかりしているらしい!実際この本が出た直後に3.11地震が発生していたようだが、ちゃんと機能していたようだ。自分が働く以上、これは嬉しい!
  • p140, p142
    • 都市再開発法は、三分の二の賛成で再開発組合が設立されたら、組合が自ら事業の推進権を持ち、権利変換に進むことができると定めている。権利変換によって従前の資産は自動的に再開発後の建物に移り、明け渡さない場合は自動的に不法占拠となる。」「当時はこの法律の本当の凄さを行政も住民もわからなかった。私自身も、実際に実行してみるまで十分理解していなかった。」
    • 「ちなみに、六本木地区の「崖下」と呼ばれていた谷町は、不良住宅の密集地区の改良を目的とした住宅地区改良法の適用地区調査が行われた地区だった。行政も「せっかくできた都市再開発法を使って劣悪な居住環境を改善したい。そうすれば、この一帯に都市再開発法を適用する大義名分も立つ」と考えたのだろう。」
    • 功利主義の見本のような文章。そりゃ功利主義を信奉しないことには、このようなプロジェクトをゴールまで導くことはできないだろうな。こういう方の尽力のおかげで今の自分たちは恵まれた環境で過ごすことができているという事実は忘れてはならない・・・。
  • p176
    • 「こうした都市構造は、危険で不便なだけではない。「都心で職住近接の暮らしを送りたい」と願う人たちの、都心に住む権利と機会を奪っている原因にもなっていることに気づいてほしい。」
      • 流石に横暴すぎるというか、自分が正義だと思い込みすぎではないかと思うが、こういう方の尽力のおかげで(以下略)
  • p177
    • 「ちなみに私も、子どもや孫たちも超高層に住んでいるが、孫たちも性格的になんの問題もなく、健康に育っている。」
      • 流石にここは、感情的で稚拙だと言わざるを得ない・・・。
  • p198
    • 「東京という都市は、世界の企業やビジネスマンにどうも人気がない。(中略)「彼らを満足させるような環境を創り出さなければ、東京は世界都市にはなれない。」海外をめぐって痛切に感じたことだ」
    • ということは、東京を世界の企業やビジネスマンがやってきて職住近接で過ごしたいと思えるような都市にしたいということか。
    • どこに最も重きを置いているのか気になる。日本に住む人間の幸せなのか、日本人の幸せなのか、日本自体の世界における位置付けを高くすることなのか、自身のディベロッパーとしての自己実現なのか。
    • のちに日本ではなく海外をメインでやろうかな・・・と揺れている的な描写があったので、自分の思う理想の都市を創り続けていられることが最も重要なのかもしれない。

from where?

  • 2023年7月から六本木で働くので、六本木ヒルズの成り立ちについては知っておきたいと思い、読むことにした。

to where?